第3章【伝説】第1話

4月。出会いと別れのシーズン。俺は世間の喧噪から離れ、一人部屋で金を数えていた。
それは季節外れの雪が関東一帯に降った夜。窓から外を見渡せば、舞い散る桜の花びらと雪が重なり、なんとも幻想的な光景だったことだろう。

数年前の俺なら、窓辺に椅子を引っ張り、ワイン片手にその光景を眺めて悦に浸っていたことだろう。
だが、今の俺にはそんな目に映るだけのわずかな喜びよりもはるかに大事なことがある。


金だ。金こそすべてだ。
お金で買えない価値もある、なんて昔CMで見たが、あんなものはある一定量の金を持っている奴だからこそ言えることだ。
本当に金がなくなると、お金で買ったわけではない小さな幸せもこの手からこぼれ落ちていく。
両親からは勘当された。父親の「金の切れ目が縁の切れ目っちゅうのはほんまやのー」と言ったときの哀しそうな表情が脳にこびりついて離れない。
「ニイニイはあたしの中で死んだから」と言った妹の声。
「………」母はなにも言わずに背を丸めていた。

あの日俺は本当の一匹狼になっちまった。


だが、その代償として得たこの金。この金は両親であり、かわいい妹、要は俺の新しい家族だ。
だから俺はこの新しい家族を増やそうと思う。大家族スペシャルみたいな感じに。



翌日午前8時30分。
昨日の雪はまだうっすらと残っていたが、空からは陽光が緑を照らし、俺の新しい門出に相応しい朝だった。

整理券の配付を待つ俺の心は、お釈迦様のように穏やかだった。
ここで負ければ死ぬしかない。比喩じゃなく死ぬしかない。
だがもう俺は恐れない。もう恐れることにも疲れた。そのジャッジメントタイムを心穏やかに待つのみ。グリーンマイルのあの体のでかい死刑囚もこんな気持ちだったのだろうか。

整理券の番号は3番。前後には男だけ。俺の心の平穏を乱す因子はない。目指す台は「花の慶次〜愛〜」今日の俺に抜かりはない。


命がけの大勝負が今始まる!