アクイ6


誰もいない教室を見渡して、一人ため息。


まったくどうかしている。


俺を除いた全員が幹男の家に向かった。幹男の家に行くことを頑なに断わる俺を、害虫でも見るような目をしてクラスメートは教室から出ていった。

まったくどうかしている。


それでも幹男のあの気持ち悪い部屋を見れば、あいつらのあのよくわからない熱も冷めることだろう。

思い出すことだろう。ああ、そうか、幹男というこの男はこういう奴だったなと。


それ以前にそもそもあいつの転校って引っ越すから転校するんじゃないのか。あの豪奢な家はまだ残ってるのだろうか。

無惨に取り壊されていればいいのに。ついでに幹男も死んじまえばいいのに。



このままここに残っていても仕方ない。なんかむかつくけど帰ろう。

なんだかひどくイライラする。頭の中でシゲキックスがパチパチしてる感じ。パチパチパチパチ。


なにをそんなにイライラしているんだ。本当にあの気持ち悪い【アクイ】ってのに毒されたのか。


これまで感じたことがないほどの理由のない激しい怒りに脅えた。自分の中から感情だけがドパアと溢れ出そうな感じ。
その日は怒りと恐怖がごちゃ混ぜになる中、震えながら眠った。



翌日教室に入ると、また流れる空気に違和感を覚えた。昨日とは違う空気。

この不穏な空気の問題は俺か。


クラスが妙によそよそしい。
みんな俺のことを見ているが、俺と目が合いそうになるとすぐに目を逸らす。なんだよ、これ。


クラスでも特に人気のないワラジ顏をした女がひそひそと俺の方をチラチラ見ながらなにかを隣に座るこれまた人気のない樹木みたいな女の耳元に囁いている。

うるせーよワラジと樹木。炙るぞ、と思ったけど口には出さない。

お前らにひそひそされてもなんにも嬉しくない。


もうめんどくさくなったからヘッドフォンをカバンから取り出し、音楽を大音量で流してくそどもの騒音をシャットダウンし、机に突っ伏した。


あれ?そういえば、幹男もいつもヘッドフォンして机に突っ伏してたよな。

今の俺って幹男と同じってことか。それはまずい。それはまずいけど、突っ伏したばかりでいきなり顔を上げるのもなんか恥ずかしいし、負けた感じがして嫌だ。


幹男。あいつはいつからクラスで孤立し始めたのか。よく憶えていない。

初めから孤立していたような気もするし、初めはクラスに溶け込んでいたようにも思える。


俺もこのまま、孤立して、陰湿なイジメとか受けたりするんだろうか。


それは困る。だけどどうしたらいいのかもうわからない。夢なら覚めてほしいなんて、頭の中で呟いたりしたが、夢じゃないことは重々わかっている。


とりあえず周りにばれないように音楽を止めてみた。初めからこんなことしなければよかった。


顔を上げなくても席のほとんどか埋まっていると雰囲気でわかる。

そしてクラスの話題の対象は俺だ。


寝たフリしてるぜ。なにあの態度。気持ち悪い奴。ありえないわ。


なんか色々と聞こえてくる。普段はまとまりのないクラスなのにこういうときだけ一致団結するから困る。


なんか涙が出てきた。悔しい。なんで俺がこんな目に遭わなくてはならないのか。もう一線を越えてしまったのか。もう戻れないのか。

100人くらいの幹男が手を繋いで横一列に並び、「お前はもうこっちには入れない」と言っている。


あいつを殺そう。もう俺にはそうする以外に逃げる場所はない。