第2章【再生】第2話


もう設置されて、1ヶ月以上経つのだろうが、この新しいエヴァを打つのは初めてだ。とは言っても雑誌で読んだからある程度は分かる。真新しい要素といえば、時短中に確変が潜伏していることがあることと、擬似連の種類が増えたことくらいか。要は今までと大して変わらない。今までとたいして変わらないくせに、こうしてみんな馬鹿みたいに並んでまでやろうとしてるんだから、すげえんだろうな、エヴァは。まるでSMAPみたいな台だ。

財布には2万5千円の金。俺のほぼ全財産。この金がなくなったらどうなってしまうのか。考えたくもない。
1万円を入れて、球貸のボタンを押そうとしたが、躊躇した。500円分の玉が出るだけだが、今の俺の財産からすれば500円は50分の1だ。自分が50分の1削られる感覚。震えてくる。だが、俺は押す。これは確認だ。ギャンブルではない。俺という人間の尊厳とか、存在価値だとかそういうなんか崇高な行為だ。

ヘラヘラ笑いながら、隣同士に座って打っているカップルがいて、殺したくなる。生半可な気持ちでパチンコをやるんじゃねえ。お前らからしたらただの遊びかもしれないが、3つ離れた席には人生をかけている俺がいるんだ。人生をかけているといっても、これはまあ一種の確認のための行為なんだが、それでも俺はこの確認に人生をかけているんだ。
今すぐ席を立ち上がり、パチンコ玉を男の口に突っ込み、ガムテープで口を塞ぎ、殴りまくってやりたい。それでその血塗れになったパチンコ玉を飲み込ませたい。それでウンコするときも肛門から血を流せばいい。だが、今の俺には口に突っ込んでやる数十個の玉ですら、貴重なものだ。肛門から出てくる玉も手で掴んで使いたいくらいだ。この玉は俺自身だ。貴重な存在の俺。アイデンティティーの証明。証明のための手段。それがパチンコだ。

唾を飲み込み、大きく深呼吸をして、ハンドルを握る。
1、2、3、4、5…17玉目でようやくチャッカーに玉が入った。今の16玉は俺の命の何分の1だろうか。いや、命じゃあないな。なんて言うんだ。確認か。俺の確認の何分の1だ。1000円で250玉だから250玉×25でえーっといくつになるんだ。7000くらいか。俺の確認は7000玉。なんて安い確認。いや、安い安くないなんて低次元なレベルの話じゃあないだろう。崇高な行為には金額の大小なんて関係ない。なにを与えたかではない。なにをしたかだ。そーだろベイベ?まずいな、もう玉がなくなってきた。7回転か。1000円で14回転。まずくないか。いいのか、このストロークで。もう少し強めた方がいいんじゃないか。ああ、強くしすぎた。2玉無駄にした。

隣の女を見ると台に顔を近付けすぎている。パチンコに慣れていないのだろうか。もし慣れていなかったら、単発を引いたときにこの紙で潜伏の有無を教えてあげれば、いいかもしんないけど、それでもじ…ああ!この判別方法書いた紙慶次のじゃねーか。エヴァのもコンビニで作ったのに。今日は慶次で勝負、じゃなくて確認の予定だったから部屋に置いてきちまった。