アウターゾーンへの扉


金曜の夜は開放的な気分になる。雨も一時的かも知らんが止んで蛙でもぴょこらんと出てきそうな夏の匂いがする爽やかな夜。
持っていた傘をブルンブルン振り回し、陽気に小声で唄っていた。「ハイサイサイ」



「う……うぅ………」

まさか…またか、またなのか。
家の近所に怪しい研究所があるんだが、その研究所の勝手口のようなところの前に人が倒れている。
この光景を見るのももう3度目だ。


そう、考えられないことだ。渋谷の千歳会館前ならいざ知らず、こんな森の中の怪しい研究所の前に人が倒れているなんてことは異常だ。それもこれで3度目だ。そして倒れている人は3分の3で苦しそうにうめき声を漏らしている。そして全員別の人間だ。


1度目は比較的若そうなサラリーマン。酔いどれが!と傘をケツの穴に刺してグリングリンしてやろうかと思ったが、そういう趣味はないからやめておいた。
2度目は帽子をとった喪黒福造のような明らかに怪しい男。傘でつんつんしようかと思ったが怖かったのでやめておいた。
そして今回は中間管理職的なミドルな魅力あるロマンスグレーな男。エヴァの冬月的な男だった。



やばいんじゃないのか?さすがにそう思うようになった。
だって行き倒れみたいに倒れてるのも異常だし(森だから近くに和民とかはない)、うめき声を上げているのもくそいかれてるし、そしてなんでいつも雨の止んだ後の夜なんだ、おまえらの出現は?蛙か虹の妖精かおまえらは。


初めて立ち止まってみた。これまでは触らぬ神になんたらで、足早に逃げていたが、もう今までのぼくとは違う。うめき声を上げる冬月の前で仁王立ちを決めた。


これは扉かもしれない。なんともアウターゾーン的じゃないかこの展開。空に浮かぶ月も心なしか赤みがかかっているようだ。絶好のアウター日和。そしてキーマンはこいつ。こいつをどうにかすればぼくのぼくだけのために用意された酒池肉林的なアウターゾーンへの扉はとうとう開かれるかもしれない。望み続けたアウターゾーンだ。



「あなた、この男をどうするつもり?」
ミザリィ若しくはタモリの声は聞こえない。まだか、まだなのかミザリィ若しくはタモリ。もうこの世界にはそろそろうんざりしてるんだが。いかれた世界へ連れて行ってくれないか?そっちの世界ならうまくやっていけそうな気がするんだ。


だが、待てども待てども誰も声をかけてくれない。無音。うめき声。無音。うめき声。うめき声しか聞こえない。冬月は目覚めない。



まだか。まだ時期早々か。
ぼくのアウターゾーンへの扉はまだ開かない。