第2章【再生】第1話


この街にまた来ることになろうとは。どうも感傷的になってしまう。俺もそれなりに年を取ったということか。

太陽は容赦なく俺の体を焦がす。上等だ。俺の体温は上がり続ける。


あのとき手を引こうかと真剣に考えた。そして実際に一度は手を引いた。いいじゃないか、十分がんばった、もう休んでもいい頃なんじゃないか。自分に言い聞かせた。

だが、どれだけ言葉を重ねても、言葉はあまりに空虚で、体の奥深くで灯り続ける篝火を消せはしなかった。消したつもりになっていたが、それはただ見て見ぬフリをしていただけに過ぎなかった。

国道に車を走らせているときに目に映る煌びやかなネオン、新聞のチラシの束の中でひときわ異彩を放つ広告。俺がどれだけ目を背けても、自然と目に飛び込んでくる。

渇いていた。あの騒音に、あの興奮に、あの喜びに。分かっていた。だが、ここでまた通うようになればまた同じことの繰り返しになるだけだ。

失望。吐き気。ぺったんこの財布。包丁を見る視線。もう十分だ。

だが、本当にそうだろうか。あのときの喜びは?あのときの興奮は?忘れてしまったのか?悪いところばかりに目をやっているだけではないか?

確かめる必要があるのではないか。己の欲を満たすためではない。これは確認をするためだ。これで喜びも興奮も感じられないのであれば、本当にやめたらいい。だが、あのときの興奮や喜びを再び感じられるのであれば或いは…。


そしてまた、この場所に帰ってきた。逃げ出した街。負け続けた街。いい思い出はない。俺は負けるためにここに帰ってきたのかもしれない。負けることで納得させたいのだろう。あれは幻だった、と。初めから喜びも興奮も存在はしなかった、と。


最後に勝負をしたのは雪の振った日だった。桜舞い散る春を飛ばし、もう夏になろうとしている。あの日の屈辱は忘れていない。

俺はスターウォーズを打っていたんだ。調子が悪かった。回らない台だったんだ。席を移ろうと何度も考えた。だが、隣に座っていたクソビッチが俺に色目を使い、俺から正常な判断力を奪った。挙句の果てにはあのクソビッチ、強持てのクソガキを連れてきて、俺から台を奪いやがったんだ。まあ、くれてやったという表現の方が正しいだろう。どうせやめようと思っていた台だったし。

ただすっきりしなかった。マナーのないクソガキが。やりたいんだったらおとなしくどこかに座って待っていろってんだ。それを力ずくではないが、周りから見たら力ずくに見えたことだろう、あんな形で俺は台を譲ってしまうなんて。俺がダサ坊みたいじゃねえか。あんなクソガキ、ぶん殴ってやればよかったのに、大人な対応をしてしまった。


まあいい。過去は過去だ。今更歯噛みしても、あのときのクソビッチとクソガキとはもう会うことはない。俺はリベンジのためにこのホールに来たわけではない。確認のためにこの場所に立っているんだ。


開店時間は午前10時。手元の時計を見ると9時55分となっている、あと5分だ。

しかし、俺の目の前に立つ女はいい女だ。体のラインがいい。そして清楚な感じがパチンコとのギャップを醸し出していて、そこがまた、いい。あのときのクソビッチとは大違いだ。一人で来ているのだろうか。どの台を打つのだろうか。まあ、確認に来ている俺には関係のない話だ。でももしも慶次だったらいいが…


入場が開始された。俺は走らない。ゆったりとゆったりと歩く。俺の目的は確認だ。台はどれでもいい。

慶次の島に着くと、半分ほど埋まっていた。どれでもいいが、どうするか。するとさっきの目の前の女が、エヴァの島に座っているのが目に付いた。隣は空いている。これもなにかの縁だ。これは勝負ではない、確認だ。台はどれでもいい。