1999年の冬
2000年まで残すところあと数日となり、街は2000年問題なんて些細な問題を抱えつつも、普段の年末以上に煌びやかに、華やかに彩られていた。
銀座はカップル達で溢れ、どのカップルも幸せそうに手を繋いて歩いている。
「世紀をまたぐ俺だからついでに君の性器もまたぐこととしようかな」なんて口説き文句がそこかしこから聞こえてきそうなクリスマス。
そんな光景を一組のカップルが喫茶店の二階から見下ろしていた。
マライアキャリーの「オーファイゼステンクリスマーウーーーユー」なんてクリスマステンションが上がる曲が流れる店内にいるカップル達は、外と同様に男は「どうやってどれだけスマートにセイキをまたぐか」ということだけを考え、女は「あの服かわいい、このデザートチョウカワイイ、それを食べてる今のあたし、どぅ?」なんてことしか考えてない。まあ、今と変わらないってことだ。
そんな欲望渦巻く喫茶店内にどうも異質な二人がいた。
ピンクの豚どもの群の中に二匹のどす黒い豚がいる感じ。
二人には会話も動きもない。男の吸うタバコの煙だけがゆらゆらとモクモクと。
女は口を真剣菊一文字のように鋭く閉ざし、男は惚けた顔をしている。
どれくらいの時間が流れただろうか。店内にいたカップル達はその一組を除いてみんな入れ替わっている。それでもなんの違和感もない。さっきいた奴らも今来た奴らもこれから来る奴らもセイキをまたぐこととおいしいゴハンを食べている自分ってどぅん?ってことしか考えていない。
「ねぇ、知ってる?友達から聞いたんだけど男のストーカーって質悪いらしいよ。ほら、何年か前にもあったじゃない。ドラマで。あのケイゾクの人がストーカー役のドラマ。だから今回みたいな殺人事件が起きたりするんだよね。怖いなぁ」
沈黙を破ったのは女だった。キレイな薔薇には棘がある。この女の言葉にも棘がある。
男は惚けた顔をし続けた方がこういうことを言い出すバカ女には効果覿面だと言い聞かせさらに惚けようとするがうまくいかない。男の唇が真剣マサムネの如くギラリと鋭い線を引いた。
男は考えている。なぜあんなことになってしまったのか。己の行動を思い返す。非は一体どっちにあったのか。男は思い返している。