Tamkin in exile【第二章】
池袋の空には雲一つなかった。こんな天気のいい日に一体なにをしているんだと悲しくもなるが、しかたない。いい加減EXILE問題にケリをつけなくてはならない。飽きてきたことだし。
池袋のHMVはサンシャイン60通りにある。サンシャイン60通りには見込んだ通り、EXILEっぽい連中が大量にいる。要は決して仲良くなりたくない人達。これなら不愉快で有意義な取材ができそうだ。
このHMVはどうやら8月30日で閉店となるらしい。表参道のHMVが閉店となったときは残念でならなかったが、ここ池袋のHMVが閉店となるのは申し訳ないがある意味ちょうどいい。
それは閉店となるのであれば、池袋にいる悪そうなやつがEXILE聞かずに育つわけがないから、閉店と聞いた悪そうなやつがこぞってEXILEとの思い出を胸に抱き集まって来るだろう。
「EXILEにろくな思い出なんてなにもないのにどうして俺等はまたここに帰ってきちまったんだろうな…」
「そうか?俺は今でもたまにだけどEXILE聞いてるぜ。俺、たまに思うんだよ。EXILEってのは俺等の夢だったんじゃないのかって。だってあの時だって…」
なんていう常人には到底理解不能な会話をしながら奴等は来る!と信じてEXILEのアルバムの前で張ること一時間、誰も来ない。
そんな馬鹿な話があるか?EXILEって紅白にも出場するようなトップグループだろ。それに歌って躍る人達なのに、月刊EXILEだとか劇団だとかよくわかんないことやってんだろ。そんな人達のCDが売れないわけないじゃあ、あるまいか?
だが、現実問題として実際に誰も手にも取らない。困ったもんだ。
待つこと一時間半、ここにきてようやくCDを手にとる人が現れる。年の頃30代前半くらいのOLが手に取った。
「すいません。ちょっとだけよろしいで…」
CDを戻して早足で逃げていった。そううまくはいかないか。
その後もたまにCDを手にとる人に声をかけ続けたが、無視されるか、脅されるかばかりされてばかりでいい加減滅入ってきた。 本当にファンがいるのかしら。
すると現れた。逸材が。テンガロンハットを被り、穴だらけのジーンズに先っぽがこむら返りした靴。ちょっとみっともないレベルに到達しているちょいデブ、そしてなによりも黒いTシャツの胸元には金色で「PERFECT YEAR 2008」とプリントされている。これは間違いなく「EXILE PERFECT YEAR 2008」のことだろう。Wikipediaで予習しておいてよかった。危うくフラグを見逃すところだった。
手元の時計を見るともう19時過ぎ。これがラストチャンスだろう。EXILE好きなやつはこれからの時間はウエストゲートパークでダンスか、居酒屋で「やっぱりHIROの真意がお前にはわかってないよ」なんて説教をするか、セックスしかしないだろうからこれからの時間での来店は見込めない。明日以降はこっちのモチベーションもダダ下がりだろうから、企画倒れで終わってしまう。
もっとも苦手とするファッションに身を包んでいるから話しかけるのに躊躇したが、ここまで時間を無駄にして、ここですごすご逸材を見逃すわけにはいかない。
「EXILEは好きですか?」
「一つ言っとくけどな、EXILEが俺なんだから覚えとけクソジャップ!ぱっぱー!」
お前の方がクソジャップだろうがと思ったし、言葉がよく理解できなかったが、初めてまともに話を聞けそうだったから、とりあえず喫茶店へぼくらは向かったのでした。
次回予告、動き出した男達。そして舞台は夜のカラオケへ!
お楽しみに!