今夜赤坂のバーで


「ごめんなさい。あなたをそういう目で見ることができないの。今までどおり仲のいい友達じゃあもういれないのかなぁ?わたしはあなたのことをすごく、本当にすごく大事に思っているの。タイトル忘れちゃったけど昔のドラマで「男と女にも友情はあるよ」みたいなことを唐沢寿明鈴木保奈美に言うシーンがあったの。知らない?知ってるでしょ?そうそう!「愛という名のもとに」!主題歌、佐野元春だっけ、歌ってるの?ああ、そうそう浜田省吾よね。よく憶えてるわね。わたしあのドラマ大好きだったの。特にチョロがね。で、そのシーン見て当時「そんなものあるわけないじゃない!」なんて思ってたの。ほら、うちのお父さんがさ…前に話したことあるでしょ。そうなの。そういうことがあったからさ、そんな異性間で友情なんて存在しないって思ってたの。本当につい最近まで。でもね、男と女にも友情はあるって思えるようになれたの。えっ?分からないの?あなたと出会えたからよ!男と女なんてそんな単純なものじゃないんだなって。あなたが教えてくれたのよ!そうよ。そうなのよ。あなたが初めてのわたしの異性の親友なの!本当に、本当にあなたは大事な人なの。あなたと出合っていなければわたしは今でもお父さんを許すことができなかったと思うの。あなたと出会えたから変わ…え?なに?あ、トイレ?ごめんね、お酒飲むの久しぶりだったからついつい熱くなっちゃった。」

「トイレですか?あちらの角を左に曲がられて、突き当たりになります。」

「長かったわね。ねえ、ちょっと大丈夫?ちょっと飲みすぎじゃないの?だってもうそれで何杯目?ううん、そうじゃなくて、さっきの店も含めてよ。11杯目?ちょっと飲みすぎじゃないの?そんなに焼酎飲めたっけ?ねえ、本当に大丈夫?ちょっとグラス一回置きなよ。顔が赤いの通り越して青くなってるよ。もう出ようか。ちょっと外の風に触れたほうがいいよ。大丈夫じゃないって!ね、ね、出よ。」

「ありがとうございましたー!またのお越しをー!」

「本当に大丈夫?あー!危ない!立ってられないじゃない!ちょっ、ちょっと!起きて!ねえ、起きてってば!そうそう、今タクシー拾うからここで座ってて。ちょっと待っててね……………………………ほら!タクシー来たから。立てる?ちょっと、ほら立ってよ。駄目か。すいませーん。ちょっと手伝ってもらってもいいですか」

「あー!こりゃひどいね。ちょっとすいませんね。よいしょ!っと!」

「ねえ、大丈夫?ほら、寝てていいから。そうそう、家に着いたら起こしてあげるからさ。ねえ、憶えてる?あっ、ごめんね、寝ててとか言ったばっかりなのに。そのまま寝てもいいから。わたしの独り言みたいなもんだし。ほら、3ヶ月前。あたしこんなに「いい人」が世の中にいるなんておも…」

「ちょっと、お客さん!ちょっと車内でそんなに大声出さないでくださいよ!」

「ちょっ、ちょっ、ちょっと!どしたのいきなり。ね、ね、ね、ちょっと落ち着いて。え!?降りる?こんな公園の前で降りてどうするのよ。大丈夫じゃないでしょ。全然大丈夫じゃないわよ。そんな状態で一人になんてさせられないよ!ほら、ドアから手離して!すいません、すいません!一回停めてもらっていいですか?」

「ちょっとお客さん、困りますよ。もうここで降りてくれないですか。え?いや、そう言われてもあたしそういうのよくわかんないですし。面倒事は勘弁してくださいよ、ほんとに」

「ね、落ち着いて。そうそう、深呼吸して。そうそう。大丈夫?気持ち悪くない?えっ!?ほんとに降りるの?ここで?どうするのよ、こんなとこで降りて。え?そんなこと言われても。うん、ごめんね。うん、ごねん。そっか…ちょっと無神経だね、わたし…ほんとにごめん。あなたに甘えてたのかもしれないね。分かった。降りるのは止めないね。でも、約束して。家に着いたら電話して。わたし起きて待ってるから。必ず約束して。待ってるから。だって…、うん分かったから。でも、お願いだから電話して。うん、約束よ。すいません、ここで一人降ります。」

「はいよ。まったく、あんた男だろ、ったく」

「じゃあ、電話してね。待ってるから、うん、うん、じゃあね。うん、電話してね、じゃあ、ね。ぜった……」











「シンゴー!シンゴーーーー!!!アーーーーーーー!!!