とりとりとり2

鳥の去った後の階段はひどいありさまだった。
階段全体にツヤツヤした羽が散らばり、足を取られたら絶対に転んでしまうだろう。この棟には何人かの小さな子どもも住んでいるから、子どもが階段から転げ落ちたりしたら大変だ。
ぼくは一枚一枚羽を拾い集め、置場もないからとりあえずさっきと同じく、キッチンへ放り込んだ。1階から3階までのすべての羽を回収するとかなりの量の羽になった。キッチンがまるでジャングルのようになってしまった。
1階へ下りると鳥は落ち着きなく、動き回り止まっては地面をくちばしでつっつくということを繰り返していた。
鳥に声をかけると、鳥は安心したのだろうか。こちらへ走って駆け寄ってきた。
「あまりに遅かったので、死んでしまったのかとすごく不安になりました。死んでいなくてよかったです」
喜ぶべきか、不快さをあらわにするか迷ったが、どちらでもどうでもよいと思い、鳥を引き連れ公園へ歩を進めた。


ひどくいい天気だった。空には雲一つない。若者がキャチボールをしていたり、外人がパントマイムをしていたり、昼間からビールを飲んだり、公園にいる人たちはそれぞれが公園を満喫している。いつものこの公園の週末の光景だ。
「みなさん楽しそうですね」
鳥は羨ましそうに言う。
喉が渇いたから缶コーヒーを自販機で購入し、鳥も飲み物を飲むどうかわからなかったが、念のため鳥のために無難なスポーツドリンクを買った。
適当なベンチに腰掛け、鳥に飲み物を勧めると、鳥はぼくの手からコーヒーを奪っていった。まあ仕方ない。
起用に羽で包み込み、くちばしでプルタブを開けると、鳥は美味そうにコーヒーを啜りだした。

鳥が話し始めるのをぼくは待っていた。きっとデリケートな話なんだろうから、本人が話し始めるまで気長に待とう。
鳥はぼくの方をちらちら窺いながら、ジュルジュル音を立ててコーヒーを飲んでいたが、意を決したのか、重かったその口を開いた。
「あなた、今悩みがありますね。それも仕事に関する悩みですね」
なにを言い出すのかと思えば。まあ、話しだしづらいのかもしれない。ぼくにもその気持ちはよく分かる。女の子に別れ話を切り出すときとかには、ぼくも「今日は3月3日だから耳の日だね」とかまるで関係のないことを口にしたりする。

ぼくは結論を急がずに、鳥のペースにあわせる。ただ、確かにぼくは今、会社のことで悩みがある。副店長がお店の金を横領したのだ。金庫にはご丁寧に「ルパン参上!」という紙を残して。
店は大騒ぎになった。騒ぎだしたのは副店長だった。青ざめた顔で「お金がなーい!」と店内に響き渡る大声で叫んでいた。たいした演技だ、とぼくは冷めた目でその光景を眺めていた。
そしてぼくは悩んでいる。店長に言うべきか、それとも面倒事に巻き込まれたくはないから、このまま静観を決め込むか。


鳥にはなにか人の心が見えたりする特殊能力があるのだかろうか。あってもおかしくはない。こんな大きな鳥だったらそれくらいの想像を超える特殊能力の一つや二つ持っていたとしてもおかしくはない。


それでもぼくは言い当てられて驚いていたから、きっとその驚きが顔にも出ていたのだろう。鳥の方を見ると、鳥はぼくの顔を見て、得意げに口笛を吹き、バサバサ羽を広げた。その仕草がむかついた。